【コラム】スポンサーは防衛大手「軍のeスポーツ大会」はeスポーツ業界の新たな財布になるか
陸上自衛隊の隊員4名が、英国国防省が主催する軍関係者向けのeスポーツ国際大会「第1回国際防衛eスポーツ大会(IDEG2026)」に出場しました。陸上自衛隊中部方面隊が10月7日に公式Xで明らかにしたもので、日の丸入りのユニフォーム姿で出国報告に臨む隊員の写真も公開されています。
大会は英国北東部のサンダーランドで10月11日まで開催されました。2025年11月にロンドンで開かれたローンチイベントには40を超える国の関係者が集まり、今回の本大会には日本、英国、米国、カナダ、フランス、オランダ、サウジアラビアなど10カ国が出場したと報じられています。
軍がeスポーツに取り組む理由
軍とゲームの組み合わせに意外さを感じる方もいるかもしれませんが、英国ではすでに制度化が進んでいます。英国防省は2024年、eスポーツを射撃やラグビーと同じく軍の公式競技として認定しました。背景にあるのは、戦場そのものの変化です。
ドローンの遠隔操作やサイバー攻撃への対処など、画面越しに状況を素早く判断する能力は、現代の防衛に欠かせないものになりつつあります。英国防省によれば、ウクライナではドローンのシミュレーターゲームが独自に開発され、操縦士の手と目の連携を鍛えることに役立てられているといいます。今大会でもFPVドローンのレースが競技に含まれており、「ゲームの腕前」と「実務の技能」の距離が縮まっていることがうかがえます。
運営はeスポーツ団体、支えるのは防衛産業
業界の視点で注目したいのは、大会の座組みです。運営は英国防省から委託を受けた英国eスポーツ連盟(British Esports)が担い、会場も同連盟が運営するサンダーランドのアリーナが使われました。支援企業には英防衛大手のBAE SystemsやBabcock Internationalが名を連ね、広告会社のM&C Saatchiも創設パートナーとして参画しています。
防衛産業側の狙いは、広報だけにとどまらないでしょう。英国防省は将来的に、大会の門戸を士官候補生や退役軍人、公務員、さらには防衛産業で働く人々にまで広げる計画を示しています。同省の担当大臣も、eスポーツがサイバー・デジタル人材の獲得と定着に役立つとの考えを明らかにしています。ゲームを得意とする若い世代との接点として、eスポーツが採用の入口になる可能性もあります。
eスポーツ業界にとっての「新しい財布」
eスポーツ業界の側から見ても、この構図は見過ごせません。日本eスポーツ白書2025によれば、2024年の国内eスポーツ市場は推計161億円と前年から9.9%伸びましたが、その内訳ではスポンサー費用が全体の35%以上を占めています。民間企業の広告予算に大きく依存する構造が続くなかで、国の予算を背景とする防衛・公共セクターは、景気や広告市況とは異なる論理で動く新たな資金源になり得ます。
ついて回る「イメージ」の問題
一方で、リスクにも目を向ける必要があります。2020年、米陸軍のeスポーツチームは、Twitch配信で戦争犯罪に触れるコメントをした視聴者をBANしたことや、実態は入隊勧誘フォームへの誘導だった「プレゼント企画」が批判を浴び、配信を一時停止しました。米連邦議会では、軍がゲーム配信の場で勧誘活動を行うことを禁じる修正案まで提出されています(のちに否決)。
同じ2020年には、『リーグ・オブ・レジェンド』の欧州リーグ「LEC」が、サウジアラビアの都市開発計画NEOMとの提携を発表の翌日に撤回しました。ファンやRiot Gamesの社員、実況陣から反発が相次ぎ、運営側も判断を急ぎすぎたと認めています。
資金の出し手が誰なのかは、ファンやコミュニティの受け止め方を大きく左右します。軍や防衛産業との接点が広がれば、大会運営会社だけでなく、競技タイトルを提供するパブリッシャーも「自社の作品がどのような文脈で使われるのか」を問われる場面が増えていくはずです。
日本のeスポーツ事業者への示唆
日本でも、防衛省は2027年度をめどにサイバー関連の要員を約2万人体制へ拡充する方針を掲げ、人材の確保を急いでいます。今回の陸上自衛隊の参加が、国内でも公共セクターとeスポーツが接近するきっかけになる可能性は十分にあるでしょう。
そうした協業が本格化すれば、大会運営やチーム運営、配信事業にとって新たな商機となる一方で、コミュニティとの信頼関係が試される局面も訪れます。誰が、何のために資金を出すのか。その説明責任を果たせるかどうかが、新しい市場を取り込めるかどうかの分かれ目になるのではないでしょうか。
執筆:eスポーツニュースジャパン






