【コラム】ベータは史上最大の盛り上がりだった——マーベル新作格闘ゲームはなぜ「壊れて」出てきたのか?
8月7日、PS5とPCで発売された『MARVEL Tōkon: Fighting Souls』(MARVEL Tōkon)は、発売直後からXが阿鼻叫喚と化しました。マーベルのヒーロー・ヴィランたちが4v4のタッグを組んで戦うこの新作格闘ゲームは、開発をアークシステムワークス、パブリッシングをソニー・インタラクティブエンタテインメントが担う、期待値の高いタイトルでした。実際、7月に実施されたオープンベータは格闘ゲーム史上最大級の参加者数を記録し、発売前の空気は悪くありませんでした。
ところが蓋を開けてみると、PC版はオンライン対戦がまともに機能しないレベルの遅延と不具合を抱えたまま世に出ました。海外の著名プロゲーマーも「PC版はまったくプレイできない」と苦言を呈するほどの惨状で、発売から数日を経ても改善どころか悪化しているという声すらあります。
開発元公式の反応は事態の深刻さとはかけ離れた呑気なトーンで、これがユーザーの反感にさらに火をつけました。Steamでは低評価レビューと返金申請が相次ぎ、同時接続者数は約2万5000人。「オワコン」と呼ぶには早いものの、期待されていた数字には遠く及ばない船出となりました。
なぜPC版だけが壊れるのか
不具合の背景として指摘されているのが、開発リソースがPS5版に偏り、PC版が事実上「移植」的な扱いを受けたのではないかという疑念です。加えて、PC版でも必須とされるPSNアカウント連携が常時バックグラウンドで走り続け、CPU負荷や発熱の原因になっているという報告も出ています。
PlayStation Studios体制の作品である以上、コンソール的な設計思想をそのままPC版に持ち込むのは自然な発想かもしれません。しかし、PCゲーマーの側から見れば、それは単なる余計なお世話でしかないでしょう。二重の不正対策ソフトによってLinux対応もMod対応も塞がれており、閉鎖性そのものへの不満も根強くあります。
「壊れて発売される」という格闘ゲームの宿命
もっとも、この手の惨事は『MARVEL Tōkon』に限った話ではありません。格闘ゲーム批評の文脈では、ジャンル全体が長らく「発売時点で欠陥品」という宿命を背負ってきたことが繰り返し指摘されています。
『バーチャファイター5FS』(2012)、『KOF XIV』(2016)、『マーヴル VS カプコン インフィニット』(2017)、『デッド オア アライブ6』(2019)——いずれも、発売直後は死産に近い評価を受けたタイトルです。『ストリートファイターV』(2016)に至っては、まともに遊べる状態になるまで数年単位のパッチ対応を要しました。オンライン対戦が前提のプロダクトが、そもそもオンラインでまともに動かないまま出荷される。この構造は、少なくとも十年以上前から格闘ゲームというジャンルにこびりついている病理といえるでしょう。
皮肉なのは、今回の開発元であるアークシステムワークスが、まさにこの病理を克服してきたスタジオの一つだという点です。『ドラゴンボール ファイターズ』(2018)は、対戦モードだけでなく単独プレイ向けのコンテンツを厚くする家庭用機時代型の戦略で高く評価された作品であり、『ギルティギア -ストライヴ-』のプロデューサーが本作にも関わっています。実力のあるスタジオでさえ、パブリッシャー主導の大型IP案件になった途端、同じ轍を踏んでしまう。今回の一件は、個別スタジオの技術力ではなく、体制やスケジュールの構造的な問題であることを浮き彫りにしています。
『スト6』が示す、もう一つの選択肢
対照的な成功例として浮かび上がるのが『ストリートファイターⅥ』です。カプコンが2023年に発売した同作は、2026年6月時点で全世界累計700万本を突破し、EVO Japan 2026のSF6部門は参加者数で単一格闘タイトル大会として世界最多を記録し、ギネス世界記録にも認定されました。
操作を簡略化する「モダンタイプ」や視覚情報に頼らないアクセシビリティ機能の実装、Nintendo Switch 2への展開を含むマルチプラットフォーム戦略。『スト6』の強さは、対戦システムの精緻さ以上に、こうした間口を広げる設計の積み重ねにあるといえます。
一方、Riot Gamesが送り出した『2XKO』は対照的な苦戦を強いられています。コンソール版発売からわずか3週間の2026年2月、開発チームの約半数、およそ80人が削減されました。EVO Japan 2026での登録者数はわずか393人。『スト6』の7168人とは比較にならない規模です。7月末には社内文書の流出から実質的にデッドゲームだという開発者コメントまで報じられました。大手パブリッシャーがIPの力を頼りに格闘ゲーム市場へ参入しても、それだけでは定着しないという事例が、また一つ積み上がった格好です。
EVOの数字が語る、ジャンル全体の頭打ち
さらに気になるのは、格闘ゲーム市場そのものが縮小局面にあるかもしれないという兆候です。米国で開催されたEVO 2026本戦では、看板タイトルである『スト6』の登録者数が前年の4228人から2414人へと約43%減少しました。『鉄拳8』も2521人から1354人へと約46%減少しています。運営体制の変化や開催コストの増大など要因は複合的ですが、個別タイトルの出来不出来にかかわらず、大会全体の求心力が下がっているという事実は重いといえます。
興味深いのは、この落ち込みが必ずしも世界共通ではないという点です。EVO Japan 2026におけるSF6部門の参加者数(7168人)は、EVO本戦(2414人)を大きく上回ります。国内の格闘ゲーム熱の高さと、カプコンが長年積み上げてきたIP展開力・座組みの強さが、海外との明暗を分けているとも読めるでしょう。
ニッチであり続けることの意味
『MARVEL Tōkon: Fighting Souls』の不具合騒動は、単発の「大手が力業でこけた」話として消費するにはもったいないものです。格闘ゲームというジャンルは、アーケード全盛期の90年代に最も広く社会に浸透し、その後の家庭用機・PC普及の波の中で少しずつ市場を縮小させてきました。そして今なお、発売時点で壊れているという宿命と、開発コストに見合う規模の市場が存在しないという構造的なジレンマを抱えたまま、新作が投入され続けています。
それでも格闘ゲームが完全に廃れないのは、コミュニティの側にジャンルを支え続ける熱量があるからです。今回の騒動でも、批判の声を上げているのは他でもない、このゲームを本気で遊びたかった層です。大手パブリッシャーがどれだけ資本とIPの力で殴り込みをかけても、最終的にジャンルを延命させているのは、こうした一人ひとりのプレイヤーの執着であるという構図は、今回も変わっていません。
執筆:eスポーツニュースジャパン






