【コラム】eスポーツはなぜ「NBAを超える」と言われなくなったのか?熱狂の終焉ではなく”産業の現実”が見えてきた
「eスポーツはNBAを超える市場になる」。数年前まで、そんな未来予測が盛んに語られていました。特に新型コロナウイルスの感染拡大によってリアルスポーツの大会が相次いで中止・延期となった2020年前後には、オンラインで開催できるeスポーツが次世代のスポーツ興行として大きな注目を集めました。
しかし現在、その熱狂はすっかり落ち着いています。The Hollywood Reporter(米メディア)が2026年9月8日に掲載した記事では、「かつて”NBAを超える”と期待されたeスポーツが、なぜその期待に応えられなかったのか」が分析されています。
もっとも、これはeスポーツそのものが衰退したという単純な話ではありません。むしろ、コロナ禍で膨らみすぎた期待値が剥がれ、本来のビジネス上の課題が見えるようになったと考えるべきでしょう。
巨大な視聴者を抱えていても、収益化には課題
eスポーツ業界を見渡すとには、現在でも巨大な視聴者が存在します。たとえば『League of Legends』の世界大会は数千万人規模の視聴者を集めるコンテンツとなっており、『Counter-Strike』などの大会では大規模アリーナを埋める興行も成立しています。
つまり、「eスポーツを見る人がいなくなった」というわけではありません。問題は、これだけの視聴者を抱えているにもかかわらず、それを伝統的なスポーツほど効率的に売上へ変換できていないことです。
特に大きいのが放映権ビジネスの弱さです。NBAやNFLなどでは、テレビ局やストリーミングサービスが巨額の放映権料を支払うことで、リーグに安定した収益が入ります。一方、eスポーツではTwitchやYouTubeなどを通じて大会を無料で視聴できるケースが多く、視聴者数がそのまま大きな放映権収入につながる構造が確立されていません。
「Co-Streaming」が生むeスポーツ特有の難しさ
さらにeスポーツには、「Co-Streaming」という独特の文化があります。大会の公式配信を選手やストリーマーが自分のチャンネルでも同時に配信する仕組みで、視聴者にとっては好きな配信者と一緒に大会を楽しめるメリットがあります。
しかしビジネス側から見ると、視聴者や広告価値が複数のチャンネルに分散することになります。伝統的なスポーツでは、リーグや放送局が視聴者を一つの巨大な商品として広告主に販売しやすいのに対し、eスポーツは人気があるからこそ、その人気を一元的な収益へ変換しにくいという矛盾を抱えています。
FaZe Clanが象徴する「期待と現実」のギャップ
こうした「期待と収益のギャップ」を象徴した存在が、eスポーツ・エンターテインメント企業のFaZe Clanです。同社は2022年にNASDAQへ上場し、一時は約14億ドルの企業価値をつけました。しかしその後、株価は急落し、最終的には上場廃止に至っています。
もちろんFaZe Clanという一企業の失敗を、そのままeスポーツ全体の問題と考えることはできません。ただ、当時の市場では「ゲーム」「eスポーツ」「ストリーミング」「インフルエンサー」「若者文化」といった複数の成長市場が一つの巨大な物語として語られ、それぞれの収益構造の違いが十分に考慮されていなかった面があります。
「若者に人気がある」「視聴者が多い」「成長している」という事実と、「企業として大きな利益を生み出せる」ということは、本来別の話です。eスポーツが経験したのは、その当たり前の事実を市場が学ぶ過程だったともいえます。
eスポーツチームの淘汰が始まった理由
その結果として、eスポーツチームの淘汰も進みました。記事では、2022年ごろには約300存在したeスポーツ組織が、現在では100未満になったという推計が紹介されています。
数字だけを見れば、明らかな衰退に映るでしょう。しかし、別の見方をすれば、これは「eスポーツなら何でも成長する」という時代が終わったことを意味しています。
チームを運営するだけでは十分な利益を生み出せず、スポンサーに依存したビジネスモデルにも限界がある。そのため現在は、競技だけでなく、動画コンテンツ、グッズ、ファッション、音楽、コミュニティなどを組み合わせ、一つのエンターテインメントブランドとして収益を生み出すことが求められています。eスポーツチームが「スポーツチーム」であると同時に「メディア企業」や「IPビジネス」へ近づいているのは、この構造的な問題が背景にあります。
次に問われるのは「若いファンを獲得できるか」
そして、より長期的な問題として考えたいのが「次世代」の存在です。『League of Legends』『Counter-Strike』『Dota』などは現在も巨大な競技シーンを持っていますが、現在のファンが年齢を重ねたとき、同じ規模のファンが若い世代から継続的に入ってくる保証はありません。
現在の若年層にとっては、『Roblox』や『Fortnite』、モバイルゲームなどがゲーム文化への入口になっているからです。これはスポーツ産業にも共通する問題で、競技人口や視聴者数を維持するには、現在のファンを囲い込むだけではなく、新しい世代を継続的に取り込む必要があります。
「ブームの終焉」ではなく、本当の産業化へ
そう考えると、現在のeスポーツを「ブームが終わった」と表現するのは少し違うのかもしれません。むしろ、コロナ禍によって一気に膨張した期待が落ち着き、eスポーツというコンテンツが本当にどの程度の経済価値を持つのかが見極められる段階に入ったと考えるべきでしょう。
「NBAを超える」という派手な未来予測は影を潜めましたが、数千万人規模の視聴者を集め、大規模な会場を満員にし、ゲームを中心に巨大なコミュニティを形成する力まで失われたわけではありません。これから問われるのは、eスポーツが「スポーツとして成立するか」ではなく、すでに存在する巨大なファン市場を、どのように持続可能なビジネスへ変換していくかということです。
ブームの終焉は、必ずしも産業の終焉ではありません。むしろeスポーツにとって、ここからが本当の意味での産業化の始まりだと言えます。
執筆:eスポーツニュースジャパン






